HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。
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寒い寒いシベリアの冬には、たくさんの雪が降ります。
雪が降ると道路が埋まったり、凍ったりして、
車で走るのがとても難しくなります。
ですから皆、犬ぞりに乗って移動するのです。
大人たちが犬ぞりに乗っているのを見ながら、
きいたんは、いつも言いました。
「きいたん、大きくなったら、そりに乗るんだ。」
ルーも言いました。
「ボク、大きくなったら、そり引っ張るんだ。」
そんなある日のこと、
犬ぞり大会が開催されることになりました。
優勝すると、イチゴが沢山貰えるのです。
きいたんは優勝して、
大好きなイチゴを沢山もらいたいと思いました。
けれども、自分のそりを持っていません。
そこで、お父さんにお願いすることにしました。
「お父たん、きいたん、犬そり大会にでたいのよ。
あたしはもうお姉ちゃんだから、そりに乗れんのよ。」
すると、お父さんは言いました。
「きいたん、そりに乗れるようになるには、
うんと練習しないといけないよ。
大会で優勝するのは、もっと難しいよ。
頑張っても、イチゴは貰えないかもしれない。
それでも、最後まで諦めずに頑張れるかい?」
きいたんは、うーんと考えました。
でも、やっぱりイチゴがほしかったので、
最後まで頑張ると、お父さんとお約束をしました。
そこでお父さんは、森に行って木を切ると、
削ったり、曲げたり、ロープで縛ったりして、
きれいなクリーム色のちいさなそりを作ってくれました。
可愛い銀色の鈴もついています。
きいたんとルーは大喜びで、早速練習を始めました。
ルーが引っ張り、きいたんは後ろから押すのです。
二人で一生懸命頑張ると、
そりはギィコギィコと音を立てて動き出しました。
そして、どんどん走り出したのです。
「あっ、待ってよう!」
きいたんは慌てて追いかけたので、転んでしまいました。
「えーん、痛いようー」
「きいたん、きいたん、大丈夫?」
ルーがすぐに戻ってきて、
ほっぺをペロペロなめてくれます。
失敗、失敗。さあ、練習再開です。
再びそりが走り出すと、今度は置いて行かれないよう、
きいたんはすぐに飛び乗りました。
「やったあ! ちゃんと乗れたのよ!」
きいたんは、嬉しくてニコニコ。
ところが、ガタンガタンとそりが大きく揺れたのです。
あっという間もなく、振り落とされてしまいました。
「怖かったのよ、ひどいのよ!
ガタガタしないようにしてちょうだい!」
きいたんはエンエン泣いて、怒りましたが、
ルーも困った顔をしていいました。
「でも、きいたん。道がでこぼこしてるんだもん。
ボク、ゆらさないように引っ張れないよ。」
「しょうがないねえ。」
きいたんは、がっかり。
何とか、落ちないようにしないといけません。
二人はしょんぼりとおうちに帰り、
その日はすぐに寝てしまいました。
次の日の朝、ルーがきいたんに聞きました。
「きいたん、どうする? 今日も練習する?」
きいたんは、そりなんか見たくもありませんでした。
でも、最後まで頑張るお約束をしましたので、
小さい声で「うん。」と、いいました。
全く、そりに乗るのは大変難しいことでした。
右や左に曲がるたびに、大きく傾くし、
ガタガタ揺れなくても、スピードがでると怖いのです。
きいたんは、何度も何度も振り落とされて、
悲しくて悲しくて、大きな声で泣きました。
ルーも、肩に食い込んだロープで毛が擦り切れ、
足も走りすぎで赤く腫れ、
鼻をクンクン鳴らして泣きました。
それでも、お約束をしたきいたんとルーは、
毎日、頑張って練習しました。
そして上手にそりに乗れるようになったころ、
大会の日がやってきたのです。
きいたんはそりを引っ張って会場まで行き、
受付のお兄さんに言いました。
「きいたんも、犬ぞり大会にでたいのよ。
出してちょうだい。」
お兄さんはびっくり。
「きいたんは、まだ小さすぎるよ。
もっと大きくなってから、またおいで。」
けれども、きいたんは諦めません。
「でも、一生懸命練習したのよ。
ちゃんとそり、乗れんのよ。出してちょうだい。」
お兄さんはうーんと考えましたが、
きいたんの代わりに受付表を書いてくれました。
「いいかい、きいたん。
絶対に無理しちゃいけないよ。
けがをしたりしたら、大変だからね。」
お兄さんとお約束をして、きいたんは会場に行きました。
大会はすでに始まっていて、人がたくさん。
合図の音に合わせて、次々そりが出発しています。
すごいスピードで出発していくそりや、
大人なのに、転んでしまう人を見ているうちに、
きいたんはだんだん不安になって、
ついには泣き出してしまいました。
ルーがびっくりして聞きました。
「きいたん、きいたん、どうしたの?」
「だって、あんなに大きなそりが、
すごい勢いで走ってるのに、
あたしはこんなにちっちゃいんだもん。
勝てっこないのよ。
それどころか、途中で転んじゃうに違いないわ。」
きいたんは、悲しくて悲しくてエンエン泣きました。
そのほっぺたをペロペロなめて、
ルーが一生懸命慰めます。
「でも、きいたん。ボク達たくさん練習したじゃない。
転んだりしないで、ちゃんと走れるよ。
もし一番になれなくったって、いいじゃないか。
最後まで頑張ろうよ。」
ルーに励まされて、きいたんは泣くのをやめました。
「そうね、あたし達、たくさん練習したものね。
お父たんとお約束もしたもの。最後まで頑張るのよ。」
何とか勇気を取り戻したところに、名前が呼ばれました。
遂にきいたんが走る番がきたのです。
一番小さなきいたんは、一番最後でした。
きいたんとルーがスタートラインにやってくると、
見ていた人達は口々に言いました。
「みてごらん、あんなに小さい子が走るよ。
ちゃんと走れるのかなあ?」
「きっと、途中で転んで泣いてしまうよ。
やめたほうがいいんじゃないかしら。」
きいたんとルーは黙って、走る準備を始めました。
準備が終わると、
係りの人が「位置について、よーいどん!」と、
合図の鉄砲をならしました。
同時にみんなが「あっ」と言いました。
きいたんが、転んでしまったのです。
けれども、きいたんはすぐに立ち上がるとそりを押し、
上手に乗りこみました。
それに併せてルーがどんどんスピードを上げます。
銀の鈴がシャンシャンと鳴りました。
その後、きいたんは一度も失敗しませんでした。
道がくねくね曲がっているところでは、
体を倒して、上手にバランスをとりました。
でこぼこ道でそりが揺れても、落ちませんでした。
ルーも一度も休みませんでした。
急な坂道でも、スピードを緩めませんでしたし、
息が切れても、足を止めませんでした。
そして、ようやくゴールが見えてきて、
きいたんとルーはついに走り終えたのです。
観ていた大人達は、一斉に歓声を上げました。
「見てごらん、あんなに小さな子が走りきったよ。
なんて凄いんだろう。たくさん練習したんだね。」
皆、口々にふたりを誉めたので、
きいたんとルーは、恥ずかしくなって、
隅っこに隠れました。
最後のきいたんが走り終わったので、
表彰式が始まりました。
きいたんとルーは、頑張ったのですが、
やっぱり一番にはなれませんでした。
表彰式を見ながら、ルーが言いました。
「きいたん、一番になれなかったねえ。」
「でも、一生懸命頑張ったもの。仕方ないのよ。」
二人ががっかりして、おうちに帰ろうとしたとき、
メダルを渡しおわった村長さんが言いました。
「さて、本来なら大会は以上で終わりですが、
今日、まだ小さいのにちゃんとそりに乗って、
最後まで頑張った子がいました。
その子に、特別賞をあげたいと思うのですが、
皆さん、いかがでしょうか?」
すると、会場の人たちがわーっと歓声を上げ、
口々に「それがいい、それがいい。」と、言いました。
皆が賛成すると、村長さんは大きな声で言いました。
「では、きいたんとルーに特別賞をあげることにします。
二人とも、前に出てきてください。」
急に名前を呼ばれたので、きいたんとルーはびっくり。
皆はおめでとうを言いながら、拍手してくれました。
恥ずかしかったきいたんは、
誰にも聞こえないくらい小さな声で、
「ありがと。」と、言いました。
そしてイチゴを見て、「シシシ」と笑いました。
きいたんは、特別賞にイチゴを一パック貰いました。
貰ったイチゴをそりに乗せて、
きいたんとルーは、大喜びでおうちに帰りました。
おうちへ帰ったらお父さんに、
二人がどんなに頑張ったか、
皆が、どんな風に誉めてくれたかを話すつもりでした。
途中で大きな声で泣いている、
お友達のそうちゃんに会いました。
きいたんはびっくりして聞きました。
「そうちゃん、そうちゃん、どうしたの?
何でそんなに泣いてるの?」
「ぼく、おなかが空いちゃったんだ。
もう一歩も歩けないよう。」
エンエン泣いているそうちゃんをみて、
かわいそうになったきいたんは、
うーんと考えた後、小さな声で言いました。
「そうちゃん、あたし、イチゴを持ってるんだけど、
それをあげるから、もう泣かないでちょうだい。」
「ほんとうかい、きいたん。
ありがとう!」
そうちゃんは大喜びで泣くのをやめました。
そして、イチゴを全部食べてしまったのです。
「これでおうちに帰れるよ。
ありがとう、バイバイ!」
おなかが膨れたそうちゃんは、
ニコニコでおうちへ帰っていきました。
きいたんは、そうちゃんに手を振り、
空っぽになったパックをそりに積みました。
イチゴは、一個も残っていませんでした。
本当は、きいたんはイチゴを、
全部一人で食べるつもりでした。
一個だって、誰にもあげたくなんかなかったのです。
きいたんは、空っぽのパックの入ったそりを引きながら、
一生懸命、泣くのを我慢しようとしました。
けれども、涙がポトン、ポトンとこぼれてしまいます。
ルーは、それを黙ってみていましたが、
きいたんに頭を押しつけると、いいました。
「きいたん、イチゴはなくなっちゃったけど、
ボクは優しいきいたんが、大好きだよ。
ボク、もっと頑張って、次こそ一番になって、
たくさんたくさんイチゴを貰ってあげるから、
もう、泣かないでちょうだい。」
きいたんは、ルーをぎゅっと抱きしめました。
「きいたんの大事な、大事なルー!
イチゴがなくったって、ルーがいるから大丈夫なのよ。
早くおうちに帰ろう。お父たんが心配するのよ。」
そうして、二人はおうちへ走って帰りました。
きいたんとルーがおうちに帰ると、
お父さんが「お帰り。大会はどうだった?」
と、聞きました。
けれども、きいたんは「ただいま。」しか言わないで、
ルーのあんよを拭いてあげ、
自分も上着を片づけて、手を洗いに行きました。
やっぱりまだ、悲しくて、
あんまりお話したくなかったのです。
けれどもお夕飯を見て、きいたんはびっくりしました。
ハンバーグや、枝豆、お豆腐、スパゲティーにスープ。
どれも、きいたんが好きなものばかり。
なによりきいたんが嬉しかったのは、
お皿に載った山盛りのイチゴでした。
ルーにも、お魚とお肉がありました。
頑張った二人に、お父さんが用意してくれたのです。
きいたんとルーは、ごちそうをおなかいっぱい食べて、
とっても幸せでしたって。